和歌と俳句

藤原良経

かくれぬに今日ひきのこすあやめ草いつかとしらで朽ちやはてなむ

君をおもふ心のそこの深さにやかかるあやめの根をやどしけむ

思ふらむ心のそこは君よりも深きあやめにひきまさりけり

空は雲庭はなみこす五月雨にながめもたえぬ人もかよはず

山城のとはたの早苗とりもあえすすゑこす風に秋ぞほのめく

いけにすむ光をみよと思ひけり木の下暗き庭の月影

おほかたの夏なき年となりやせむまたこの里も清水せくなり

しばしこそ小川の清水むすびつれ月もやどりぬ逢坂の関

立田川きしの柳のしたかげに夏なきなみを風のよすなり

夏はなほ暮れもおそくや思ふらむ杣山川をおろす筏士

夕立の風にわかれてゆく雲にをくれてのぼる山の端の月

夏の夜をやがてあかしのかぢまくら波にかたぶく月をしぞ思ふ

夏の夜は雲のいづくにやどるともわがおもかけに月は残さむ

月かげに涼みあかせる夏の夜はただひとゝきの秋ぞありける

すずろなる難波わたりの煙かな葦火たくやにかひたつるころ

風そよぐならのこかげの夕涼み涼しくもゆるほたるなりけり

まどわたる宵の蛍も影きえぬ軒端にしろき月のはじめに

音にたてて告げぬばかりぞほたるこそ秋は近しと色に見せけれ

ゆく蛍かねてくもぢや思ふらむ雁なきぬべき風のけしきに

宮城野の露をよすがにたつ鹿はをのれなかでや花をまつらむ

高瀬舟さをもとりあへず明くる夜に先立つ月のあとの白波

むらさめのあとこそみえね山の蝉なけどもいまだ紅葉せぬころ

大空は霞も霧もたなびかで木かげばかりにくもる月かな

この頃は富士の白雪きえそめてひとりや月のみねにすむらむ