和歌と俳句

藤原俊成

降りそめて幾日になりぬ鈴鹿河やそせもしらぬさみだれの空

さみだれはみなそこの橋名に負ひて浪こそ渡れ人は通はず

した草は葉ずゑばかりになりにけり浮田の森の五月雨のころ

いかなれや雲間も見えぬさみだれに晒しそふらむ布引の瀧

さみだれはたかねの雲の内にしてなるさぞふじのしるしなりける

世とともにおもかげにのみ立ちながらまた見えじとはなどおもふらむ

よそならばさてもやみなむうきものは馴れてもつらきちぎりなりけり

蘆わけのほどこそあらめ難波舟沖にいでても漕ぎあはじとや

ねにたてていざさは恋ひむ笛竹のひとよの節もあふならぬかは

あさましやいかに掬びし山の井のまたもかけ見ぬちぎりなりけむ

月は秋秋は月なる時なれや空もひかりをそへて見ゆらむ

ながむれば雲は浪地に消えつきて明石の沖にすめるかな

わが庵はをばすて山のふもとかはなぐさめがたき秋の月かな

數ならぬひかりを空に見せ顔に月にやどかす袖のつゆかな

続後撰集・雑歌
世中を背きて見れど秋の月おなじ空にぞ猶めぐりける

あきらけき雲のうへをばよろづ世と天つやしろも照らしますらむ

ももちたび浦嶋の子はかへるともはこやの山はときはなるべし

いく千代と契りをきけむかすが山枝さしかはす峯の松原

ちとせとも中々ささじ三笠山松吹く風にこゑきこゆなり

さかきばを小鹽の松にさしそへていはひし千代や君が代のため