秋はまづ都の西をたづぬれば嵯峨野の花ぞ咲きはじめける
露にふし風になびくも女郎花秋のつまとぞ見するなりけり
いとかくや袖はしほれし野邊にいでて昔も秋の花は見しかど
小萩咲く野辺をば人の栖にて鹿は宿にや鳴かむとすらむ
あたらしや露けき野辺にたつ鹿の上毛にうつる萩が花ずり
見るままになぐさみぬべき海山も都のほかはものぞかなしき
日かずゆく草の枕をかぞふれば露をきそふるさよの中山
あはれなる野じまが埼の庵かなつゆをく袖に浪もかけけり
きよみがた浪ぢさやけき月を見てやがて心やせきをもるべき
難波人あし火たく屋にやどかりてすずろに袖の潮たるるかな
染めわたす梢を見てぞ山ざとは秋ふかくなる日をかぞへける
雲となり雨となりてや立田姫秋のもみじの色をそむらむ
新古今集
心とや紅葉はすらむたつた山松はしぐれにぬれぬものかは
春は花秋はもみぢとなぞやこのよもの山邊よ人さそふらむ
秋ふかみ青葉の山も紅葉けり名をばしぐれも染めじとおもふに
はかなくぞ昔のすゑをなげきこし家をいでてぞとふべかりける
さめて思ふ過ぎにし方はいにしへのむそぢの夢を見けるなりけり
今もなほ心のやみははれぬかな思ひすててしこの世なれども
新古今集・神祇
春日野のおどろの道の埋水すゑだに神のしるしあらはせ
かれがれになりにし藤の末なれどまたしづ枝とは思はざりしを