和歌と俳句

藤原良経

六百番歌合百首

手に馴らす夏のと思へどもただ秋風のすみかなりけり

片山の垣根のひかげほの見えて露にぞうつる花の夕顔

入日さす外山の雲は晴れにけり嵐に過ぐる夕立のそら

鳴く蝉の羽におく露に秋かけて木陰すずしき夕暮れの聲

うち寄する波より秋の立田川さても忘れぬ柳かげかな

星合の空の光ととなるものは雲居の庭に照らす灯し火

はかなしや荒れたる宿のうたたねに稲妻かよふ手枕の

ひとりぬる葦のまろやの下露に床をならべてなくなり

きのふまでよもぎに閉ぢし柴の戸も野分にはるる岡のべの里

ふりくらす小萩がもとの庭の雨を今宵は荻の上にきくかな

物思はでかかる露やは袖に置くながめてけりな秋の夕暮

山とほき門田のすゑは霧はれて穂波に沈む有明の月

波よする澤のあしべを臥しわびて風にたつなりのはねかき

心には見ぬ昔こそ浮かびけれ月にながむる廣澤の池

宇津の山こえし昔の跡ふりて蔦の枯葉に秋風ぞ吹く

ははそはら雫も色や変はるらむ森のしたくさ秋更けにけり

雲のうへに待ちこしけふの白菊は人のことばの花にぞありける

霜むすぶ秋のすゑはの小笹原かぜには露のこぼれしものを

たつたひめ今はのころの秋風に時雨をいそぐ人の袖かな

散りはてむ木の葉の色を残しても色こそなけれ峰の松風