手に馴らす夏の扇と思へどもただ秋風のすみかなりけり
片山の垣根のひかげほの見えて露にぞうつる花の夕顔
入日さす外山の雲は晴れにけり嵐に過ぐる夕立のそら
鳴く蝉の羽におく露に秋かけて木陰すずしき夕暮れの聲
うち寄する波より秋の立田川さても忘れぬ柳かげかな
星合の空の光ととなるものは雲居の庭に照らす灯し火
はかなしや荒れたる宿のうたたねに稲妻かよふ手枕の露
ひとりぬる葦のまろやの下露に床をならべて鶉なくなり
きのふまでよもぎに閉ぢし柴の戸も野分にはるる岡のべの里
ふりくらす小萩がもとの庭の雨を今宵は荻の上にきくかな
物思はでかかる露やは袖に置くながめてけりな秋の夕暮
山とほき門田のすゑは霧はれて穂波に沈む有明の月
波よする澤のあしべを臥しわびて風にたつなり鴫のはねかき
心には見ぬ昔こそ浮かびけれ月にながむる廣澤の池
宇津の山こえし昔の跡ふりて蔦の枯葉に秋風ぞ吹く
ははそはら雫も色や変はるらむ森のしたくさ秋更けにけり
雲のうへに待ちこしけふの白菊は人のことばの花にぞありける
霜むすぶ秋のすゑはの小笹原かぜには露のこぼれしものを
たつたひめ今はのころの秋風に時雨をいそぐ人の袖かな
散りはてむ木の葉の色を残しても色こそなけれ峰の松風